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    運動療法 続き
    前回、リハビリ(運動)が、症状の改善と進行抑制をもたらす可能性
    があるということを紹介しましたが、今回はその追加情報です。


             香川大学医学部附属病院 脳神経内科診療科長

                                 出口 一志
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     運動には様々な種類があります。運動というと、各個人が意識的に行うもの
    (例えば筋トレやウオーキングなど)や特別なプログラムに基づいて行われるも
    の(例えば集中リハビリなど)と考えがちですが、日常生活の中で無意識に行わ
    れるもの(例えば家事など)も含まれます。また、パーキンソン病の症状も動作
    の障害が最初に思い浮かびますが、動作以外の症状(いわゆる非運動症状)も
    生活の質に重大な影響を及ぼす症状です。これまで、どのような運動の種類
    がどのような症状を改善させるかという検討はあまり行われていませんでし
    た。
     最近、大規模なパーキンソン病のデータベースを基にした研究において、
    早期のパーキンソン病の患者さんが日常的身体活動量と運動習慣を維持すれ
    ば、6年程度の長期にわたつてパーキンソン病の悪化を抑制する可能性が示
    されました。(これは前回のコラムで紹介した「運動習慣が生命予後を改善す
    る」、「薬剤量を増加させない」といつた報告と矛盾しないものです。)その
    研究の中で、以下のことが明らかとなりました。


    ① 家事(炊事、洗濯、庭仕事やガーデ
     ニング、介護)は姿勢や歩行、日常
     生活動作の進行を有意に遅らせる。
    ② 余暇活動(ウオーキング、スポーツ
     やレクリエーション、筋トレ、持久
     力訓練)は姿勢や歩行障害の進行を
     抑制する。
    ③ 仕事を続けることは情報処理速度の
                       悪化を防ぐ。
                     ④ 中等度以上の強度の運動は姿勢や歩
                       行障害の進行抑制に有効である。

     定期的に行う運動には様々な種類があります。その中で、バーキンソン
    病の運動機能改善に有効とされるものは、ヨガ、筋カトレーニング、水中
    トレーニング、太極拳、トレッドミル、仮想現実トレーニング、音楽ダンス
    トレーニング、ウオーキング、自転車、バドゥアンジン気功などです。いず
    れの運動も運動をしない場合と比べ、有意に運動機能を改善することが示さ
    れていますが、どの運動が最も優れているのかについてはわかっていません
    でした。最近、過去のすべての研究成果に基づき、個々の運動の有効性を
    比較検討(ネットワークメタ解析)した結果が報告され、以下のことが明らか
    となりました。


    ①UPDRSⅢ(医師が診察して評価
     する運動機能)の改善には音楽
     リズムに合わせたダンスが最も
     優れている。
    ②Timed-Up-and-Goテスト(椅
     子から立ち上がり、 3メー ト
     ル先の目標まで歩いて往復 し
     て元の椅子に着席するまでの
     時間を測定する)の改善には、
     ヨガが最も優れ、次いで筋カ
     トレ ーニングが良い。



    ヨガは関節の柔軟性や靭帯の 弾力性を高め、筋トレは筋力維持や筋肉
    量を増加させることから、両者の併用は歩行に関する下肢筋の状態を
    改善する効果を高める可能性も考えられています。
    ③Berg Balance Scale (椅子からの立ち上がり動作などから成る 14種
     類の項目を評価する)の改善には音楽リズムに合わせたダンスが最も
     有効である。

     ダンスには規則性のない動き(開始、終了、回転、横方向への動き、
    異なった方向への移動など)が含まれており、運動の開始や調節など
    に関わる神経回路の連絡を改善すると考えられています。しかし、
    パーキンソン病の患者さんは、固有感覚(体がどのように動いている
    のか、変化しているのかを感じとる能力)のコントロ ールが必要な
    ダンス運動は難しいこともあるため、実施にあたっては主治医やリハ
    ビリの先生と相談しながら行う必要があります。なお、リハビリの一
    つとして行われている卓球にはダンスとよく似た要素が含まれてい
    るかもしれません。

     2型糖尿病を有するパーキンソン病の患者さんは、2型糖尿病の
    ない患者さんと比べ、抑うつ、歩行障害、要介助状態になるリスク
    が有意に高いことが報告されました。また、数年間経過を診ている
    と、2型糖尿病のある患者さんでは、糖尿病のない患者さんよりも
    有意に認知機能障害や歩行障害を発症する患者さんの割合が増加し
    ていきます。運動障害、抑うつ、生活の質も2型糖尿病のある患者
    さんは年々悪化していきます。

     高脂肪食を与えてインスリンを効きにくくしたマウス(糖尿病
    マウス)では、黒質一線条体の障害(パー キンソン病でみられる
    障害)がみられることや、パーキンソン病ではない糖尿病患者さ
    んにおいて潜在的な黒質一線条体の障害がおこることが報告され
    ています。これらの点からも、2型糖尿病を合併しているパーキ
    ンソン病の患者さんにとっては、糖尿病のコントロー ルもパーキ
    ンソン病の間接的治療になると考えられます。2型糖尿病の基本
    的な治療は運動であることからも、パーキンソン病の基礎治療と
    しての運動の重要性が示唆されます。


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