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    香川大学医学部附属病院 脳神経内科診療科長

                  出口 一志

     パーキンソン病の治療は、薬物治療、デバイス療法、リハビリ(運動)
    再生医療の4つに分類されます。数多くある薬物の中から何を選択 して
    内服するか、デバイス療法(脳深部刺激療法、レボドパ/カルビドパ経
    腸溶液)を行うかは、患者さんの病期(早期なのか、進行期なのか)に
    加え、それまでに行われてきた治療の効果と副作用など、様々な要因を
    考慮したうえで決定されます。したがって、個々の患者さんごとに治療
    法は異なっており、画一的な方法は存在しません。
     一方で、リハビリ(運動)は早期から進行期まですべての病期で実施
    可能であり、薬剤やデバイス療法において懸念される副作用もないと考
    えられます。また近年、パーキンソン病におけるリハビリ(運動)が、
    症状を改善させるだけではなく、進行を抑制する可能性もある ことを
    示す研究結果も報告されるようになっています。

     運動の習慣のある患者さんは、運動の習慣のない患者さんと比べ、8年
    後の生存率が高いことが報告されました。この結果は、運動の強度とは
    無関係に認められていますので、パーキンソン病のために動作が不良の方
    でも、自分のペースで運動すれば効果が期待できます。まず、1日30分
    の散歩(軽い運動)を週に5日行うことから始め、それが問題なくてきる
    ようなら1 日30分の速足歩行、普通の速度での自転車こぎ、テニス(ダ
    ブルス)などの運動(中等度の運動)を週に5日行うと良いでしょう。
    それも可能なら、1日20分のランニング、エアロビクス、高速での自転車
    こぎ、山登りなどの運動(強い運動)を週に3日行ってもかまいません。
    パーキンソン病と診断されるまで運動の習慣がなかった患者さんでも、診断
    後に運動を始めることによって、運動をしないままの患者さんよりも生存率
    が高いことを示されています。したがって運動を始めるのが遅すぎるという
    ことはありません。

     自分で散歩を行うのは難しい、意思が弱くて続かないなどの理由で運動を
    習貫にできない患者さんは定期的なリハビリを行うことも一つの方法です。
    リハビリには病院の外来やディサービスなどで行うものと、短期間入院し
    て集中的に行うもの(集中リハビリ)があります。これらのうち、集中リ
    ハビリの有効性についての報告がなされるようになっています。集中リハ
    ビリとは、理学療法(関節可動域、ストレッチ、姿勢・バランス訓練、歩
    行訓練)、作業療法(自立性の改善、手指の訓練)、言語療法(発声と嚥下
    訓練)の組み合わせを4週間程度行うものです。これによって運動機能は
    薬剤の追加と同等以上の改善を示し、生活の質も良好になることが明らか
    になっています。このような効果は、リハビリ終了の4か月後においても
    持続することが示されており、リハビリ直後の一時的なものではないよう
    です。

     パーキンソン病と診断された直後の患者さんを、①MAO-B阻害薬の
    内服のみを行ったグループ(集中リハビリなし)と、②MAO-B阻害薬
    の内服と年1回の集中リハビリを行ったグループに分け、2年間の追跡
    を行った研究が報告されています。その結果、①のグループでは薬剤量
    が増加したのに対し、②のグループでは薬剤量がほとんど変わりません
    でした。MAO-B阻害薬は患者さんの脳内で産生されるドパミンを有効
    活用するための薬剤なので、集中リハビリで薬剤量が増加しなかったとい
    うことは、脳内のドパミン神経の状態が悪化せずに維持されたということ
    を意味するかもしれません。運動は薬剤を1種類追加するのと同等の効果
    があるとされています。自主的に運動できる方は散歩やラジオ体操を行う
    ことでも良いと思います。症状の日内変動(ウェアリング・オフ)やジス
    キネジアのある方は集中リハビリを定期的に行うことも選択肢になります。
    自分に適した運動は何か、主治医の先生に相談してください。


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