香川大学医学部附属病院 脳神経内科診療科長
出口 一志
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ドパミン神経からのドパミン放出を高める「ドパミン放出促進薬」
シンメトレル®には、ドパミン神経からのドパミン放出を促進する
作用があります。軽症の方には有効ですが、症状の改善効果はそれほ
ど高くありません。1日300mgの内服により、進行期にみられるジス
キネジアを軽減する効果がありますが、効果の持続は8カ月程度と言
われています。また、1日300mgの内服は国内で一般的に使用される
量よりも多い、腎機能が悪い方には使いにくいなどの問題点がありま
す。
ドパミン以外の物質に作用する薬
1)ドパミンとアセチルコリンの不均衡を是正する「抗コリン薬」
線条体のアセチルコリン神経は、ドパミン受容体が存在する部位
の細胞を活性化していますが、これらの細胞の一部は、パーキンソ
ン病に伴うドパミンの減少によって過剰に活動するようになり、
ドパミンとアセチルコリンの働きのバランスが崩れます。
抗コリン薬(アーテン®、アキネトン®)は、アセチルコリン神経
の働きを抑制して細胞の活動亢進を是正することで効果を発揮しま
す。軽症の方には有効ですが、緑内障のある方には使用できません。
また、パーキンソン病ではアセチルコリン神経にも減少がみられ、
それによるうつ、意欲低下、幻覚、認知機能低下がおこります。
したがって、アセチルコリンを抑制する抗コリン薬の使用は、認知
症のある方や高齢者では控えた方がよいと考えられます。
2)ドパミンとアデノシンの不均衡を是正する「アデノシンA2A受容体拮抗薬」
大脳基底核(線条体、淡蒼球、視床下核、黒質)の神経回路は、
必要な運動を適切なタイミングで引き起こすとともに、不必要な
運動を抑制するために働いています。パーキンソン病では、この
神経回路のバランスが崩れることによって、運動緩慢が生じてき
ます。パーキンソン病では、ドパミンが減少することで、アデノ
シン(運動を抑制する物質)が相対的に多くなっています。
ノウリアスト®は、神経回路の中のアデノシンが作用する部位
(アデノシンA2A受容体)を阻害することによって症状を改善
させます。レボドパの併用下で有効性が確認されています。
3)ノルアドレナリンを補充する「ノルアドレナリン作用増強薬」
パーキンソン病の進行期では脳内のノルアドレナリンが減少
しています。ドプス®は、ノルアドレナリンの前段階の物質で、
内服後にノルアドレナリンへと変換されます。すくみ足および
起立時の血圧低下(起立性低血圧)の改善を目的に使用されま
す。すくみ足がオフ時に出現する場合は、オフの短縮を目的と
した治療を最初に行います。オン時に出現する場合は、ドプス®
の内服とリハビリを考慮します。その場合、20%程度の患者さ
んに中等度以上の改善が期待できると言われています。ノル
アドレナリンには血圧を上げる作用があるため、起立性低血圧
による自覚症状(起立時のめまい感、ふらつき感など)がある
場合には、ドプス®の使用が考慮されます。その場合、半数
程度の患者さんで自覚症状の改善が見られています。
4)複数の作用によって症状を改善する「ゾニサミド」
ゾニサミドは、もともと抗てんかん薬として使用されていま
したが、抗てんかん作用を示す量よりもはるかに少量でパーキ
ンソン病に効果があることが明らかとなった薬剤です。抗てん
かん薬としてはエクセグラン®、抗パーキンソン病薬としては
トレリーフ®の製品名で使用されています。パーキンソン病に
効果がある理由として、ドパミン神経活動活性化によるドパミ
ン放出促進、モノアミン酸化酵素の阻害といったドパミン関連
の作用と、大脳基底核の神経回路の調節といったドパミン以外
の作用が考えられています。レボドパの併用下で症状改善が示
されており、とくに振戦に対する有効性が示されています。
また、認知機能低下例においてもパーキンソン症状の改善が示
されており、レビー小体型認知症においても使用されます。
次回は、デバイス療法についての話です。