前回の会報誌では、治療の中心はレボドパ製剤というタイ
トルでのコラムでしたが、会報誌発行後、レボドパの血中で
の分解を抑制する薬剤(COMT阻害薬)として、オンジェン
ティス®が2020年8月に発売となりました。この薬剤は、コ
ムタン®と同等の効果(オフ時間の短縮)が期待できますが、
1日1回の内服で持続的な効果が得られること、効果の発現が
速い(1週間程度で効果を実感できる)ことなどが特徴です。
香川大学医学部付属病院 脳神経内科診療科長
出口 一志
————————————————————————————–
ドパミンの作用部位に働く「ドパミン受容体刺激薬」
レボドパは脳内でドパミンとなった後、神経の末端から放出され、受容体と
呼ばれる場所に作用することで、その効果を発揮します。この受容体を刺激す
る薬剤が「ドパミン受容体刺激薬」です。パーキンソン病の薬剤としては、
レボドパと双璧をなすもので、若年で軽症の方には、この薬剤を単独で用いる
こともあります。薬剤の構造から、麦角系と非麦角系の2つに分類されます。
<麦角系>
パーロデル®、ペルマックス®、カバサール®がこの仲間になります。これ
らの薬剤は20年以上の歴史があり、有効性も確立しています。しかし、カバ
サール®投与に関連した心臓弁膜症の発症が報告されたことで、麦角系は最初
に使用される薬剤ではなくなりました。
<非麦角系>
麦角系に続いて開発されたのが非麦角系の薬剤であり、現在ではこちらの
タイプをパーキンソン病治療に用いることが一般的です。内服薬として、
ビ・シフロール®、ミラペックス®LA、レキップ®、レキップ®CRがあり、
貼付薬として、ニュープロ®パッチとハルロピ®テープ(2019年12月発売)
があります。また、特殊なものとして注射薬(アポカイン®)も用いられて
います。
パーキンソン病の治療を開始して3~5年以上が経過すると、多くの方
が運動合併症に悩まされます。運動合併症とは、薬剤効果持続時間の短縮
(ウエアリング・オフ)や自分の意志とは無関係に勝手に体が動いてしま
う現象(ジスキネジア)のことですが、これらは脳内の線条体におけるド
パミン濃度の変動が大きくなり、受容体の刺激が不安定になることが原因
と考えられています。したがって、持続的かつ安定的に受容体が刺激され
ることが理想的な治療になります。そのためには、作用時間ができるだけ
長く、血中濃度ができるだけ一定になる薬剤が望ましいといえます。その
観点からは、ビ・シフロール®の徐放剤であるミラペックス®LAや、レ
キップ®の徐放剤であるレキップ®CRは、作用時間の長さや血中濃度の安
定性において優れた薬剤といえます。また、貼付薬であるニュープロ®
パッチとハルロピ®テープ(レキップ®と同じ成分を含む)は、皮膚から
薬剤が持続的に吸収されるため、内服薬よりもさらに血中濃度が一定に
なりやすく、また、嚥下障害のため内服が困難な方でも使用できるといっ
た利点があります。アポカイン®は、薬剤効果の切れたオフ時に自己注射
を行うもので、即効性が期待できますが、効果の持続は比較的短く、内服
薬の隙間を埋めることを目的としたものです。
一方で、非麦角系の代表的な副作用には以下のものがあります。突発的
睡眠は、予兆なく寝入ってしまう睡眠発作であり、交通事故などの誘因に
なることがあります。また、過度の眠気もしばしば見られ、日常生活に
支障をきたします。膝から下のむくみは、心臓、肝臓や腎臓疾患、長時間
の座位などで起こりますが、それらの問題がない場合には薬剤の副作用を
疑う必要があります。幻覚(無いはずのものが見える、聞こえる、気配が
する)は、認知機能低下の症状でもありますが、薬剤の副作用として起こ
る場合もあります。病的な賭博(パチンコなどで大金を使う)や買い物
(異常な浪費)、性欲亢進、過食などが起こることもあり、そのような場合
は早急に対処しなくてはなりません。
(次回は補助的な役割を担う薬剤の話をします