香川大学医学部附属病院 脳神経内科診療科長
出口 一志
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このコラムで以前にデバイスを用いた治療
についてお話をしましたが、今回はその追加
情報について述べたいと思います。デバイス
(device)とは、機器・装置のことで、パーキ
ンソン病治療を開始して4~5年が経過する
と多くの患者さんが経験する内服効果の持続
時間の短縮(ウェアリング・オフ現象)や自分
の意志とは無関係に勝手に体が動く現象(ジ
スキネジア)に対して考慮される治療法で
す。導入の目安は最善の薬物治療にも関わ
らず、1)1日5回以上オのレボドパ内服、2)1日2時間以上のオフ、
3)1日1時間以上の生活に支障をきたす程度のジスキネジアのいずれ
か1つがみられる場合です(5-2-1ルール)。
1)脳深部刺激療法(deep brain stimulation:DBS)
DBSの適応は、①パーキンソン病であること(発症から5年経過しても
診断が変わらないこと)、②治療に関する問題点がある(適切な薬物治療
にもかかわらず5-2-1ルールを満たす)または副作用で十分な薬物
治療ができない(DBSで症状の改善十減薬による副作用の低減を期待)、
③認知機能や精神症状を認めない(認める例では術後に認知機能が悪化
する可能性あり)、④75歳未満(手術時の年齢が若いほど効果が高い
ため)などが挙げられます。
従来の方法は、あらかじめ至適レベルに設定された一定の電気刺激
を脳内(視床下部、淡蒼球内節、視床腹中間核のいずれか)に加えるもの
でした。この方法では薬剤効果がオンでもオフでも同じ刺激が加えられ
ることになり、ウェアリング・オフやジスキネジアに対する細かい調整
はできません。そのような中、パーキンソン病の方の大脳基底核から出
るβ帯域の神経活動とパーキンソン症状(筋固縮や動作緩慢)がよく相関し
ていることが明らかとなり、β帯域の成分の増減に応じて刺激強度を調
整するシステム(薬剤効果オン時には弱い刺激、オフ時には強い刺激)が
実用化されました(adaptive DBS:状態に適した刺激を調整できるDBS)。
香川大学でもこのシステムを要いた治療を行っています。
2)ホスレボドパ・ホスカルビドパ水和物配合剤(持続皮下投与)
従来は、胃痩を造設し、ポンプを用いてゲル状のレボドパ/カルビ
ドパ経腸溶液 (L dopa/carbidopa intestinal gel: LCIG.デュオドー パ® )
を空腸内に持続的に投与する方法が行 われてきました。これにより
血液中のドパミン濃度はほぼ一定のレベルに保たれ、理想とされる
持続的ドパミン刺激に近い状態が得られるようになリました。しかし、
胃痩の造設やチュ ーブの管理など、患者さんにとっては少なからず
負担感のあるものでした。それに対して、ホスレボドパ・ホスカルビ
ドパ水和物配合剤(ヴィアレブ® ) は、レボ ドパ・カルビドパ (メネ
シット® 、ネオドパストン® )を持続的に皮下への注射投与できるよう
にしたもので、比較的容易に24時間連続投与が可能です。デュオドー
パ® は夜間睡眠中の投与を行いませんが、ヴィアレブ®は睡眠中も
投与を行うため、夜間の寝返りやトイレ移動が困難な患者さん、早朝の
オフが強く起床時にレボドパの内服が必要な患者さんの動作改善効果が
期待できます。国内では2023年夏頃の発売が予定されており、DBSの適応
がない、またはDBSを希望されない方には試してみたい方法と言えます。
3)集束超音波療法(focuse ultrasound treatment:FUS)
本態性振戦における手の難治性振戦に対して行われるようになった
方法ですが、パー キンソン病の振戦や運動障害にも保険適応が広がっ
ています。1,024本の超音波ビー ムを脳の治療標的部位に集中的
に照射し、熱凝固させることで効果を発揮します。デバイスを用いな
いので、デバイス療法には含まれませんが、脳内の神経回路に作用す
るため、DBSと同様のイメ ー ジでとらえることができます。DBSは脳
の手術になリますが、FUSは頭蓋の上から超音波を照射するだけなので、
身体への負担が少なくなります。ただし、現状では一 側の治療しかで
きないため、症状の重篤な側の反対側の治療標的部位にFUSを行うこと
になります。少数例の検討では、治療から36カ月後にも効果は持続し、
90%の患者さんにおいて運動症状を有意に改善させたことが報告されて
います。現在、国内では18施設で実施可能となっています。