パーキンソン病治療の両輪は、薬物治療とリハビリです。
リハビリの有用性については、前回のコラムに書きました
ので、今回から薬物治療の現状について述べさせていただき
ます。パーキンソン病の治療薬は、その作用機序から9タイプ
に分けられており、患者さんの状態に合わせて使い分けられ
ています。まずは、レボドパ製剤とその関連薬についてです。
香川大学医学部付属病院 脳神経内科診療科長
出口 一志
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治療の中心はレボドパ製剤
レボドパは脳内に欠乏しているドパミンを補充するための薬剤です。内服
すると消化管から吸収され、脳内へと移行して、ドパミンに変換されて効果
を発揮します。しかし、レボドパが効率的に十分な効果を発揮するためには、
いくつかの問題があります。
1)血液中でのレボドパ分解
レボドパは血液中で酵素によって分解されるため、実際にドパミンに変換
されて利用されるのは、内服したレボドパのごく一部となります。それでは
効率が悪いため、酵素の働きを阻害する薬剤がレボドパと併用されるように
なりました。
最初に登場したのはドパミン脱炭酸酵素阻害薬(DDC阻害薬)で、現在
ではレボドパとDDC阻害薬の合剤が一般的に使用されています。DDC阻害
薬には2種類あり、一つはカルビドパ、もう一つはベンセラジドです。ネオ
ドパストン®、メネシット®はレボドパとカルビドパの合剤、マドパー®、
ネオドパゾール®はレボドパとベンセラジドの合剤です。DDC阻害薬の性質
により、多少の差があり、ベンセラジドの方がレボドパ効果の発現が速く、
カルビドパの方がレボドパ効果を緩やかに持続させると考えられています。
カテコール-O-メチル基転移酵素(COMT)阻害薬は、DDC阻害薬と同様
にレボドパの血中での分解を抑制する薬剤(コムタン®)です。単純にレボ
ドパ分解を抑制するだけでなく、間接的な作用として、レボドパの脳内への
移行にも良い影響を与えると考えられています。コムタン®の併用によりレ
ボドパ濃度が上昇し、効果の持続がみられます。現在はネオドパストン®
(メネシット®)とコムタン®を合わせた薬剤(スタレボ®)が一般に使用
されています。スタレボ®を使用すると、ネオドパストン®(メネシット®)
とコムタン®を別々に飲む場合と比べ、飲み間違いを防げる、飲む錠数を
減らせるといったメリットがあります。
2)脳内でのドパミン分解
レボドパが脳内へと移行し、ドパミンに変換された後も、モノアミン酸化
酵素B(MAO-B)がドパミンを分解し、レボドパの効率を下げてしまいます。
これを抑制するのがMAO-B阻害薬です。長い間、エフピー®が唯一の
薬剤でしたが、2018年にアジレクト®、2019年にエクフィナ®と新しい
薬剤が加わり、選択肢が増えました。これらの薬剤は、内服したレボドパ
由来のドパミン分解を防ぐのはもちろんですが、自分の脳内に残存してい
るドパミン神経から放出されたドパミン分解も防いでくれます。したがって、
軽症の患者さんであれば、MAO-B阻害薬だけでも症状を軽快させることが
可能です。実際、アジレクト®単独で治療を開始した場合、2年後に46%、
4年後でも22.5%の患者さんにおいて、他の薬剤の追加が不要であったと
の報告があります。MAO-B阻害薬の本来の目的は、ドパミンの分解を抑制
して、ドパミンの作用を高め、作用時間を延長することにありますが、そ
れ以外にもユニークな作用があるようです。アジレクト®内服は、抑うつ
・不安感、注意力低下、睡眠障害、早朝のオフ症状などに有効である可能
性が示されています。一方、エクフィナ®には、効果の発現が速い(1カ月
程度で効果を実感できる)、疼痛やレボドパに関連したジスキネジアを軽
減させるといった報告がなされています。