パーキンソン病治療は、薬剤、リハビリ、手術、再生
医療の4つに分けて考えることができます。これらのう
ち、現時点でヒトにおける有効性が証明されているもの
は、薬剤、リハビリ、手術です。再生医療に関しては
ようやく治験が始まり、今後の進展が期待されています。
今回は、 薬剤の陰に隠れがちですが、薬剤の効果に勝る
とも劣らないリハビリについての話題です。
香川大学医学部附属病院 脳神経内科診療科長
出口 一志
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リハビリの有効性にはエビデンスがあります
医師が病気の診断と治療を行う上で参考にしているのが診療ガイドライン
です。パーキンソン病に関するガイドラインは2018年に改訂版が出されまし
た。これは、パーキンソン病を専門とする医師や患者さんの代表が、膨大な
研究データと現実的な問題(身体的、経済的負担など)を基に、意見を出し
合ってまとめられた現時点でのベストと考えられるものです。その内容は
Q & A形式になっており、リハビリに関しては以下のように記載されています。
Q & A 4-4 運動療法は運動症状改善に有効か
回答 : 薬物療法や手術療法とともに運動療法を行うことで運動症状の改善が
得られ、有用である。
ガイドライン委員会は、リハビリが、有効かつ安全であり、早期から進行
期までどのステージにおいても介入すると有効性が高いと結論付けています。
患者さんの実感は?
治療は、患者さんが「効果がある」と感じることが大事ですが、リハビリ
を行った患者さんの実感はどうでしょうか?約300名の患者さん(そのうち
の半数は介助を要する方)を対象としたアンケート調査では、90%以上の
患者さんが何らかの効果を実感すると回答しています。特に、筋力、体の
柔軟性、歩きやすさ、日常生活動作で効果を実感される方が多いようです。
いつから何をやればいいの?
リハビリは「動けなくなったら始めればよい」というものではありませ
ん。ガイドライン委員会は、早期におけるリハビリも有効性が高いと述べ
ています。リハビリは、体力維持、柔軟性維持、筋力維持、動作練習、呼吸
練習などを目的とし、患者さんの状態(普通に動ける、安全に歩行できな
い、ほとんどの動作に介助が必要など)に応じてオーダーメードで行われ
ます。近年、パーキンソン病専用のリハビリプログラムが開発され、注目
を集めています。1つは声を大きくする訓練(LSVT®️LOUD)、もう一つ
は動きを大きくする訓練(LSVT®️BIG)です。前者は、発音、顔の表情、
発話明瞭度、嚥下機能、神経機能を改善させ、約2年間効果が持続したと
いう報告があります。後者は、歩幅と歩行速度、バランス、体幹の回転量、
寝返りなど日常生活動作、運動機能全般を改善させ、約4か月効果が維持
されたと報告されています。LSVT®️LOUDおよびLSVT®️BIGは画期的な
リハビリプログラムといえますが、認定を受けた理学療法士、作業療法
士、言語聴覚士が必要なため、これまで香川県内では実施できませんで
した。しかし、2019年秋からようやく高松市のリハビリ病院でもLSVT®️
LOUD/LSVT®️BIGの実施が可能となりました。治療選択肢が増えたことは
県内の患者さんにとって朗報です。
最後に
リハビリは薬剤と両輪をなす大切な治療法です。どちらか一方けでは
最大限の効果を発揮することは難しいです。進行期の患者さんは、ウェ
アリング・オフ(薬の作用時間の短縮)もあるので、思い切って入院し
て、短期間の集中リハビリを受けるのも一つの方法です。ぜひ治療の中
にリハビリを取り入れ、生活の質を上げていってください。